東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)156号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕そこで原告ら主張の審決を取り消すべき事由の有無について判断するに、本願意匠と引用意匠は全体の形態が審決認定の限度で一致していることは当事者間に争いがない。そして、籾摺機において、籾穀排出筒、起風部、万石部を直列状に設け、起風部上方に脱部を突設し、前後面に各跳上揚穀筒を設けた配置は、籾摺機の機能上必要な基本的形態として周知であることも当事者間に争いがない。原告らは、したがつて右配置は看者の注意を惹かない、と主張する。しかし、物品の形状のみから成る意匠の全体的な形態がその意匠に係る物品の基本的形態として周知であるときでも、全体的な形態が絶対に意匠の要部(最も看者の注意を惹く点)になり得ないわけではなく、それが周知の形態でない場合に比べて、その重要性の比重が相対的に低下するに過ぎないと解するのが相当である。したがつて、本願意匠に前記配置に基づく全体的な形態のほかに看者の注意を惹く点がないとすれば、右の全体的な形態がやはり本願意匠の最も看者の注意を惹く点であるといわねばならないから、本願意匠に看者の注意を惹く点がほかにあるかどうかを次に検討する。
本願意匠の形態の多くの部分が流曲線状であり、引用意匠の形態の多くの部分が直線状であることは当事者間に争いがない。しかし、<書証>によれば、本願意匠のうち脱部は直線で象られていることが明らかであり、脱部は籾摺機の中央最高部にあつて、人目につきにくい部分であるとはいえないから、本願意匠が全体として流曲線で象られているということはできない。また、<書証>によれば、引用意匠の形態のうち、籾穀排出筒、各揚穀筒の一部は曲線で象られていることが認められるので、引用意匠が全体として直線で象られているといえるかどうかも疑問である。したがつて、引用意匠が全体として直線で象られているのに反し本願意匠が全体として流曲線で象られていることが看者の注意を惹く点であるということはできない。
本願意匠の脱部の形態が直線状であり、原告ら主張の両外方の形態が流曲線状であることは当事者間に争いがないが、前記<書証>を対比すれば、原告ら主張の流曲線は、引用意匠を象る直線および曲線に若干の修正を施した程度のものに過ぎず、脱部を象る直線とコントラストをなして独特の美感を呈する程のものではないと認めるのが相当である。したがつて、流曲線と直線とのコントラストによる独特の美感が本願意匠の看者の注意を惹く点であるということはできない。
さらに、本願意匠および引用意匠の万石部の形態がそれぞれ原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがないが、前記<書証>を対比すれば、その差異は籾摺機全体からみれば微小な部分に存するに過ぎないものと認められるので、これが看者の注意を惹く点であるとは到底いえない。
右に判示したとおり、本願意匠には、前叙の籾摺機としての機能上必要な各構成部の配置に基づく全体的な形態のほかには、看者の注意を惹く点は全くないといわなければならないので、右の配置が周知であつても、やはり前記全体の形態が最も看者の注意を惹くといわなければならない。そうだとすると、前叙のとおり右基本的形態が同一である以上、他に原告ら主張の差異があつても、本願意匠は引用意匠と類似であることを免れない。したがつて、審決には原告ら主張の違法はない。
よつて原告らの請求を棄却……する。
(服部高顕 滝川叡一 奈良次郎)